BLOG
投稿日:2023/07/31

複雑な合金や化合物の計算を可能にするAkaiKKRってどんなもの?

AkaiKKRをアカデメイアとして紹介するページがなかったので、本記事を作成しました。

今後ともAkaiKKRを始めとした物性・計算物理分野のお役立ち情報を発信できたらと考えております。ぜひtwitterなどフォローいただければと存じます。

 

記事の内容

  • 不規則系の計算ならAkaiKKRがいい
  • なぜなら、軽い計算で準備も少なくて済むからです。
  • ほかにもこういう機能があります!
  • アカデメイアはみなさまをサポートできます。相談いただければうれしいです。

不規則系の計算なら、AkaiKKRをご検討ください。

みなさんこんにちは。
現在、アカデメイアではAkaiKKRの商用利用権についての管理・販売を行っています。

AkaiKKRは赤井久純博士が長年かけて制作してきた、すばらしい第一原理計算アプリケーションです。

2022年に、元大阪大学・東京大学物性研究所にいらした赤井久純博士がアカデメイアの仲間として参加され、いまも積極的に開発を行っています。

アカデメイアとしては、AkaiKKRをみなさんに使いやすく使ってもらい、また、オープンソフトウェアとして提供することで、物性の業界発展に貢献することをもくろんでいます。その結果としてAkaiKKRを含めた物性物理、計算機物理のご相談がいただければありがたいと考えております。

以下では名刺代わりに、AkaiKKRについてすこし紹介します。

AkaiKKRってどんなもの?

AkaiKKRは元大阪大学教授の赤井久純博士が長年かけて制作してきた、複雑な合金や化合物の計算を可能にする第一原理計算アプリケーションです。2022年に赤井久純博士がアカデメイアの仲間として参加され、いまも積極的に開発を行っています。

開発者の赤井博士。

アカデメイアとしては、これまで通りの公開に加えて、AkaiKKRをオープンソースソフトウェアライセンスとするとともに、より多くの人たちに使いやすいと感じていただけるソフトウェアとして機能追加をしていくことで物性分野の発展に寄与していきたいと考えています。その結果としてAkaiKKRを含めた物性物理や計算機科学に関するご相談がいただければありがたいです。

 

AkaiKKRの使い方はこちら、AkaiKKRのページはこちらへ。

 

不規則な物質を計算しようとすると計算量が爆発する

規則性のないものを計算するのは、大変なことです。原子の並びに周期性がない系を計算するためのオーソドックスな手法としては、スーパーセル(数百くらいの原子数の結晶)を作る方法があります。スーパーセルの中の原子をある程度ランダム化するなどして計算に放り込んでやると、かなり時間はかかりますが一応計算結果を得ることができます。しかし、これを行ってみると、たとえばワークステーションで1週間の計算を行って得られた結果が1つの物質にしか適用できないなど、計算コストと得られる結果が見合っていないのでは……というような感想を抱くのではないでしょうか。

 

AkaiKKRは不規則系が得意です。

かつて、Korringa(1947), Kohn–Rostocker(1954)が電子の散乱理論に基づき、グリーン関数を使った全電子計算を提案しました(KKR法。グリーン関数法とも呼ばれる)。この方法は、1つの原子のまわりに不規則物質の不規則性を押し込めてしまう近似(コヒーレントポテンシャル近似)と相性がよい手法でした。この2つを組み合わせてKKR-CPA法と呼ばれます。この手法によれば、スーパーセルを作ることなく比較的軽い計算で不規則系が計算できます。AkaiKKRはKKR-CPA法を使った計算ができるほぼ唯一の存在であることから、開発から数十年が経つ今も不規則系の計算で用いられる貴重な存在であり続けています。そして2022年からは赤井博士の他、アカデメイア物性部門の研究員らによって開発・研究・機能拡張が行われています。

 

電気抵抗も、磁化の変化も、有限温度で。

話はちょっと変わりますが、物理学の仮定には「絶対零度である」という仮定も存在します。しかし、たとえば電気抵抗や磁化について、意味のある値を得ようとすると絶対零度ではなく有限温度の挙動が知りたいハズです。そこでわたしたちは不規則性からくる残留抵抗だけでなく、有限温度で重要になるフォノン散乱やマグノン散乱による抵抗をふくむ電気抵抗、ハイゼンベルクモデルへのマッピングから計算した磁化の温度変化といった追加機能を作っています。ハイゼンベルクモデルへのマッピングなどは、これを利用してたとえば古典的な計算(モンテカルロ・シミュレーションなど)に放り込んでやるといったことも行われており(例:磁石のための物質開発などにおける物性と材料特性の結びつけなど)、データ駆動の物質開発に都合がよいものだと考えています。

 

形状の定まらないものの計算も実はできます。

AkaiKKRは十分に高速な計算を提供していますが、それはあくまでk-空間(波数空間)の話でした。実は、AkaiKKRには実空間で計算できる追加機能も存在します。実空間で計算することのなにが嬉しいのでしょうか。k-空間での計算は形状や結晶的な規則性を仮定しています。しかし、実空間で計算すれば、分子やアモルファス、クラスタ(分子の集合)についても理解を深めることができます。

 

計算量? 心配いりません。

そこで心配になるのが計算量です。k-空間を使っていた旨味がなくなってしまっているではないか、とお考えになるでしょう。確かに、ひとつの電子について考えてみたとき、空間で考えると、すべての電子との相互作用を計算することになってしまいます。その計算量のオーダはとなってしまうでしょう(いま、電子の個数を個とおいている)。これは全く実行不可能です。幸い、密度汎関数法という方法を用いると、有効な近似のもとで計算量のオーダをとすることができます。しかし、それでもあつかう原子の数と共に計算量は急激に増加します。そこでAkaiKKRでは、さらなる方法として遮蔽変換、という手法を導入した追加コードが存在します。これは1つの電子について考えたとき、その近傍だけの電子を考えればいいよという変換です。その結果、計算量はオーダをにすることができる可能性がでてきます(Order-N法)。ふつう、オーダをにしようとすると、近似がどこかで入ってしまうものです。ところが、KKR法におけるOrder-N法は近似なしにこの計算を実現することができるのです。

 

AkaiKKRを使いたいときに、赤井博士がアドバイスいたします

さて、ここまででAkaiKKRが不規則系の計算に有用なものだということが理解いただけたかと思います。合金にせよ、半導体にせよ、化合物にせよ、不規則な物質が簡単に計算できます。ただ、AkaiKKRをみなさんの研究や事業にあてはめて考えたとき「使いたいけれど、どうやったらいいのかわからない」ということがあると思います。そんなときに、開発者である赤井博士が相談相手となり、みなさんの研究にあわせた使い方をレクチャーしたり、計算方法やその解釈について一緒になって考えたり、といったサービスがあります。上記の追加コードも含めて、ぜひご検討くだされば幸いです。アカデメイアでは今後、ユーザ同士のコミュニティなど、質問や開発要求がしやすい環境を整備することや、GUIによるAkaiKKRの実行といった、ユーザビリティに力を注いでいこうと考えております。ぜひみなさまと一緒に計算物質科学を盛り上げていけたら、うれしく思います。AkaiKKRのお問い合わせはこちらまで。

これからもアカデメイアは物性分野の発展に力を注いでまいります。AkaiKKR以外にも、機械学習を使ったマテリアルズインフォマティクスや、QuantumEspressoやOpenMXを用いた計算、その他物理計算ツール、画像処理を含む物質評価、論文の自動処理、GUIの開発、Webサービスの開発、3D空間上での物質表現など、さまざまな事業に取り組んでおります。もし心に留まったものがあれば、ささいなことでもお声がけいただければ幸いです。