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投稿日:2022/04/18

鉄道模型のススメ – 脱線に関する考察編(その2)

 ずいぶんと時間が経過してしまったが、以前載せた「脱線に関する考察編」がそこそこ読まれているようなので、新たに発見したことも含めてもう少し掘り下げてみたいと思う。といっても割とありがちなパターンの羅列になってしまうのと、相変わらず抜本的な解決先は見いだせていない。
 なお、毎回書かせていただいているが、あくまでも筆者の経験に基づくものであることを前提としていただきたい。結論として真逆だという主張も大いにあるだろうし、そういった主張を否定する気は全くない。筆者の手元にある環境から起きた事実とそこから得た推論を展開しているだけなので、「そういうこともあるものなんだ、ふーん。」くらいのノリで読み進めていただければ幸いである。なお、レールに関する記事は全てTOMIX製(筆者がそれしか保有していないから・・・)を前提としている。

1. 個体差

 これは何もNゲージに限った話ではないのだが、同一品番の製品でもいわゆる当たり外れが存在する。ただし、Nゲージの場合はその出方がかなりランダムで、例えば再生産された新ロットの方が改良されていそうなものだが、一概にそうとも言えないようだ。新品と中古品を比較しても、絶対に新品の方が優れているというわけでもない。

2. ポイントレール

 ポイントレールが脱線原因になりやすいことは前回の記事でも述べた通りである。また、通常のレールに比べて構造が複雑なので前述の個体差や何らかの原因で起こる不具合の影響が顕著に出る。特にトングレール(分岐可動部)の状態がどうなっているかで脱線のしやすさが変わってくる。当然ながら理想的な状態は以下のような条件を満たしていることだ。

  • どちらに切り替えても車輪が通過する側は隙間なく固定部にピッタリと密着し、車輪が通過しない側は固定部からしっかり離れる。
  • 車輪が通過する側はレール内側側面が固定部から滑らかにつながる。
  • 可動部ではあるが、切り替え後はグラつきがない。

 すなわち、この条件からある程度逸脱したものが脱線常連原因となる。

  • 車輪が通過する側について、固定部との間に隙間ができてしまう。
  • 車輪が通過する側について、固定部と密着はしているものの、滑らかさがあまりなくひっかかりのようなものが出てしまう。
  • グラつきがあり、車両通過時にトングレール自体が重み等で振動してしまう。

 脱線常連状態に陥った場合、手立てとしては通常はシンプルに別製品に交換するか、分解等のメンテナンスで解決するかの二択となる。新品の場合は運が良ければ初期不良として無償交換や修理を受け付けてもらえるかもしれないが、実情として初期不良と認定されるかどうかはグレーゾーンが大きく難しいと推察する。さらに、どちらかというとある程度普通に使用した後に前述のような症状が出てしまい、最初は調子良かったのに何故?ということが多いのだ。
 別製品に交換する場合、当然ながらネックはコストが高いことだ。特にポイントレールは高価なので消耗品と割り切って交換するのは躊躇する。
 分解等のメンテナンスに関しては相当慎重にやらないと正常に機能しなくなることがリスクである。筆者は使い物にならない程の「外れ」製品を購入したことはないが、長期間の経年劣化でトングレールの調子が悪くなったことはある。若干の変形とグラつきが起こってしまい、車輪がまともに通過できなくなった。なお、ポイントマシンを交流で動作させていた時代(現行製品は直流)のシロモノなので相当古い。この時は工具を使って何とかしようと試みたが、結局余計に歪に変形させてしまい、実質壊してしまった。よって新製品に交換せざるを得なかった。ポイントレール自体、かなり緻密な設計がなされているので、相当慣れた手先の器用な人でなければ、ごく簡単な調整でさえ難儀することになるだろう。
 極論としてポイントを設けなければ脱線は格段に起こりにくくなるのだが、待避線やヤードを設けることができないのはやはり不便だし運転の楽しみも減ってしまう(もちろん不要という人もいるだろうから、あくまでケースバイケース)。
 ところで、制御機器は手元に集中すべしという考え方から来ているのか知らないが、ポイントと言えば専用のコントローラとポイントマシンを接続し、電動で動かすのが主流である。これは全くの私見だし真逆の主張も多数あるだろうが、すぐ手が届くところにあり、容易に動かせるなら手動ポイントの方が良いのではないかと思う(ただし、電動主流のため、手動は種類が限られる)。どうせ車両をレールに載せるのもリレーラ使おうが使うまいが手で行うわけだし・・・。抜本的な解決策とは到底言えないが、自分のレイアウトでは手動で済む箇所は全て手動にしている。具体的には以下のメリットがあると考える。

  • 単純に電動に比べて安価なので、交換時のコスト面でのダメージは電動より少ない。
  • 手で切り替えを行うのでシンプルだが確実に動作し、前述の隙間問題が起こらないもしくは解消されることが多い。切り替えレバーも全く使い勝手は悪くない。
  • 電動に起因するトラブル自体が存在しない。従って不具合が起きたときの原因も特定しやすい。
  • 配線もコントローラも不要で交換も楽。
  • ポイントマシンは後付けできるので、電動化しようと思えばあとでもできる。
  • 構造自体が単純なのか、経験上電動に比べて不具合が起きにくい。

3. 振り子(車体傾斜)機能搭載の車両

 脱線の割合からして通常(振り子機能なし)の車両と比較すると圧倒的である。集電板の曲げ加工と台車の回転によって発生する傾斜を利用して実現しており、相当繊細な調整がなされている様子で、ほんの些細な挙動誤差がすぐ脱線につながる。
 厄介なのは脱線する車両も微妙にバラツキがあり、潜在的に物理的な条件ははっきりしていても、観察している限りほとんどランダムに脱線が発生するようにしか見えない点だ。様々なWebサイトでも振り子式の脱線記事はよくみかけるが、同一品番でも自分が所有している車両では全く発生しなかったり、逆に快調に走行している動画の車両と同一の自分の所有車両がいつも脱線するという例もある。前述で挙げた個体差もかなりあるということだ。走行中を超スローで撮影して台車周りを拡大視して精密解析でもかければ原因は分かるだろうが、ごく一般のユーザがそんな実験環境を用意するのは現実的ではない。じっくり観察する、台車の首を振ってみる、分解してみる、くらいがせいぜいだが、それでも原因がよく分からないことが多いのが現状である。別の車両形式の台車でもボディとの接続方式が同一であれば互換性はあるので交換はできる。そうすると脱線しなくなったりするのだが、比較しても元の台車に特に欠陥は見当たらない。何せ振り子式でない車両に取り付けると全く脱線しなくなるのだから・・・。
 自分の場合は新品でそんなロットに遭遇してしまい、同一品番でいくつか不具合の動画や記事が掲載されていたので見てみたのだが原因は違っていたようで、今は原因究明を休止している。分解等をやり過ぎて座席パーツが少し変形してしまったためだ。幸い、脱線する箇所は前述でも挙げたポイントレールを分岐元から入ったときかつ分岐方向も決まっており、逆方向だと脱線しないことが実験で分かっている。ヤードに入れる時のみ慎重にスローで走行すれば大丈夫なので、運転不可能ではない。だが、これは逆に言えば走行できるレイアウトに大きな制限が発生してしまうということだ。
 また、異なるメーカーで同一の車両形式があり、振り子機能が搭載されているものかいないものかを選べるような状況ならリスクを考えて振り子なしのものを購入する手はあるだろうが、そういったケースは少ない。つまり欲しいと思った車両形式が決まると、自動的に振り子機能が搭載されているかいないか決まる。なので、脱線リスクを考えて購入するか見送るかは悩ましい選択となる。
 参考までに筆者の経験上、次のような条件のレイアウトや走行条件であれば脱線が発生しづらいようである。

  • ポイント通過の際、走行方向はポイントの分岐先から入るようになっている。
  • 逆方向に通過する場合、必ず手前に140mm程度のストレートレールが入っている。(ただし、ポイントレール自体がしっかりしていることが条件)
  • スケールスピードで120km/h程度を限界としておく。
  • カント付きカーブレールが敷設されていない。

4. 勾配とカント付きカーブレールの組み合わせ

 前述のポイントレールは除外した環境を考えた場合、筆者の経験上では勾配が全くない平面のレイアウトでは脱線が発生したことはない。振り子式の車両をS字のような推奨されない線形で走らせてみても全く問題なく普通に走った(一般的にはS字で脱線するケースは多いようだが)。
 レイアウトに立体交差等を組み込む場合は必然的に勾配区間ができることになる。合わせて、勾配角度には必ず変化が伴う。エンドレスレイアウトを組む限り勾配の開始、終了はどこかに設ける必要があるし、場合によっては勾配中に勾配角度の緩急を調整することもある。実際、曲線勾配は直線勾配よりも負荷が高いので、自分は曲線では勾配を緩やかにするように調整している。この変化の箇所とカント付カーブレールが組み合わさると脱線が起こりやすくなる。車両を支える台車がレール面の変化に追従できなくなり、浮き上がりが出てしまうのだ。例えばどんなにテーブルや椅子がしっかりしていても床面が歪んでいればガタガタしてしまうのと同じである。また、この現象は振り子機能搭載の有無に関わらずしばしば発生する。
 一般的にNゲージでのいわゆる勾配問題は、主にトラクション不足による空転で列車が登坂できないということがよく取り上げられる。しかし、脱線に関してもリスクが潜んでいる。カント付カーブレールは走行のリアルさが増して個人的には好きなのだが、Nゲージにとってはどうしても不利な線形を作ることになってしまう。カーブ勾配にはできるだけカント付カーブレールを入れない方が無難である。

5. 編成長

 前述のポイントや勾配とも関連してくるのだが、例えば15両程度の長編成を組むと普通に脱線しやすくなる。感覚的に自明かもしれないが、自車両だけでなく前後に連結されたトレーラ車との相性や影響で、カプラーを通じて押される、引っ張られる、曲げられるといった負荷がかかるからだ。単純に何両かを切り離して短編成にするだけで脱線しづらくなる。
 可能ならあきらめて短編成化したり、編成順もしくは台車のみを入れ替えたり、台車周りが上下左右に十分なめらかに動くかどうかをチェック・調整したりすると解決するかもしれない。

6. 全体的な所感

 非常に乱暴な言い方になってしまうが、走行に直接関係するレール、台車、カプラーといったパーツに実写さながらのリアリティのみを追求してしまうと、どうしても走行安定性とのトレードオフが発生するようだ。以前載せた内容のおさらいになってしまうが、例えばカプラーで言えば現在主流になっている密連型は確かに車間が狭いし見た目上のリアリティもあるだろう。だが、メーカー毎に作りが異なるため互換性がない。同一メーカーでも形状が細かく分類されていてやはり互換性に乏しい。同一形式の車両でも新製品でバージョンアップされるとどんどん変わっていき、旧製品とは連結できない(ボディの外観はほとんど変わらないのに)等課題も感じる。
 筆者はNゲージは安定して走ってなんぼという考え方なので、もしカプラーに自由に選択肢があるならアーノルドカプラー一択だ。単純に安価な上に見た目以外他のカプラーと比較して全て優れているからである。前述の長編成に関してもアーノルドカプラーのみで編成された旧製品の列車は全く脱線しない。連結部分に適度にアソビがあるので他車の挙動影響を受けにくい。反論もあろうかと思うが、実際に扱ってみて経験上事実そうなのだから他に書きようがない・・・。
 現在の製品は一部を除き、最初から密連型のものが標準装備になってしまっているので選択しようがない(しかもカプラーパーツ自体が高い・・・)のだが、個人的にはリアリティを追求したいユーザと、安価に安定した走行を楽しみたいユーザとそれぞれすみ分けできるようなラインナップになっていると嬉しいと感じる。TOMIXは一部の製品について、オプションでTNカプラーに付け替えできるような形にしているが、例えばそんなイメージだ。