鉄道模型のススメ – 固定レイアウト(ジオラマ)解体編
鉄道模型の趣味が進むと、規模や情景については千差万別でありながらも大抵は固定レイアウト(ジオラマ)の作成に辿り着く。所有するレール、車両、ストラクチャーといったものが増えていき、いわゆるお座敷レイアウトでは満足度に限界が来てしまうのだ。都度敷設と片付けを繰り返すのが手間になってしまう側面もある。もちろん場所や手間の都合から、レンタルレイアウトで楽しむ人も大勢いると思うが、リアルな情景で車両を思いのままに走行させたいというモチベーションは共通している。
そこで、本稿では固定レイアウト作成について云々・・・ではなく、真逆である解体について述べる。今までの前振りはなんだったの?という突っ込みはもちろん想定済みだが、作成関連については様々なメディアで非常に多くの技法が紹介されている。ビギナー向けから上級者向けまで網羅されつくされており、今更ここで何かを語ったところで全て二番煎じであり、劣化バージョンにしかならない。
しかし解体については意外と情報ソースがない。製作と比べるとネガティブで痛々しいイメージがつきまとうからだろうか。とはいえ固定レイアウトを組んだあとでも、不思議と十中八九直面することになるトピックなので本稿で取り上げることにした。本稿全般を通じてのことであるが、極力「破棄」ではなく「解体」という言葉を使っている。これは後述の理由とも関連するが、レイアウトを再構築するというケースも多いためだ。また、趣味自体を完全に引退したり、いつかまた始めるかもしれないが離れるという場合でも、再利用できる部品は売却や保管が可能であり、消耗品や再利用不可以外の要素に関しては「破棄」としない方が得策である。
なお、しつこく毎回書かせていただいているが、本稿もあくまで筆者の経験に基づくものであることを前提としていただきたい。これが究極の方法論だとか、これが正しいやり方だとか主張する気は全くない。文末をシンプルにするために断定的な書き方をしている箇所もあるが「そういうやり方もあるものなんだ、ふーん。」くらいのノリで読み進めていただければ幸いである。
1. 解体の理由
そもそも論として、固定レイアウトを解体する理由はなんだろうか。固定レイアウト自体、その名の通りある場所に固定して設置することを前提としたものだ。矛盾しているようだが、考えられうる理由を列挙してみる。
- 引っ越し等の事情により、同じ場所に設置し続けることができなくなった。
- 飽きた、拡張したくなった、縮小したくなった等の様々な理由でレイアウトを変更することになった。
- この趣味自体を辞める等、固定レイアウトを維持する理由がなくなった。
- レイアウトを構成する部品の劣化や不具合が生じてしまった。(特にポイントレール)
- 不本意ながら、脱線の頻発や勾配での空転等、主にレイアウト側が原因での課題に対応すべく変更せざるを得なくなった。
- 不慮の事故等により、そのままの状態ではレイアウトが使えない状況に陥った。
- 当人の趣向の変化や技術向上等に伴い、レールや制御機器を丸ごと変更することになった。(例えば道床付きレールからフレキシブルレールに変える等)
- 管理者不在の状況に陥った。
どうだろうか。前述のケースは部分的な解体も含んでいるし、タイミングや頻度もケースバイケースではあるものの、意外と多いものだ。
2. 解体の対象
具体的に解体対象のうち、再利用可能であろうものを少し考えてみる。
- レイアウトボード等のベース部分
- レール全般
- ストラクチャー(駅、建物、フィギュア等)
- 制御機器(パワーユニット等)
- ケーブル類(フィーダー等)
逆に再利用が難しいものも考えてみる。
- 自然表現(カラーパウダー、フォーリッジ等)
- 地形表現(ブラスター、粘土等)
- レール脇表現(バラスト等)
俯瞰してみると、大雑把に表現すればお座敷レイアウトでも使用するような部品は再利用が可能であり、固定レイアウト(ジオラマ)に特化した情景関連の材料は再利用が難しいということが言えそうだ。規模や方法にもよるので一概にとは言えないが、コスト的には再利用可能なものの方が高価である。再利用が難しいものは解体の際に致し方なく破棄になったとしても、費用損失としては実はそれほど大きくはない。
なお、余談ではあるが鉄道模型の主役と言える車両群は、無償譲渡等の例外を除けばぶっちぎりで高価であることは言うまでもない。そして、車両群はそもそもレイアウトに固定する類のものではないので、固定レイアウト解体とは基本的に無関係である。趣味全体にかけている費用を考えれば解体による金額損失の割合はさらに小さくなる。要するに解体自体に潜むハードルに、費用面はそれほど大きく関わらない(俗に言う「カネの問題ではない」)ということだ。
3. 解体の方法
固定レイアウトは、その名の通り何らかの方法で、対象要素がレイアウトベースに直接的あるいは関節的に固定されている。
そして、レール、ストラクチャー、その他情景表現の部材等、おそらく大半の要素の固定には何らかの接着剤が用いられていることが多いと思うので、ここでは接着剤の剥離について着目する。逆に言えば、その他の固定方法(主に釘、ネジ等)については適切な工具を用いることによって比較的簡単に外すことができる。
接着剤に話を戻すと、大抵はその種類に応じて「はがし液」となるものが存在する。
専用製品から薬品系の汎用品まで幅広く販売されており、これらを適切に用いれば剥離はできる。ただし、溶液によってはストラクチャーそのものの変色や変形を招くので、ネット等で性質をよく調べてから使うのが良いだろう。
筆者はほぼ全ての接着にボンド原液もしくはボンド水溶液を用いている。そして剥離しなければならない場合には「無水エタノール」を使っている。これをバラストやストラクチャーの接着面にスポイトを使って染み込ませると、ヘラ状の工具等で簡単に剥がすことができる。
本来の用途は掃除や洗浄用なのだが、以下のような特徴があり、重宝している。
- 水分を含んでいない(厳密には十分無視できる程度らしい)ので金属部に付着しても問題ない。というよりむしろレールや電子系部品のクリーナーとして用いることもできる。
- 揮発性が高いので、拭き取りの手間がほとんどなく、製品の変色・変形・劣化等を引き起こすことがない。
- 大量に付着すると手荒れの原因になってしまうが、若干触れる程度であれば全く問題ない。
接着面の剥離されうまくいけば、あとはお座敷レイアウトを片づけるときと手順はほとんど変わらない。レールやストラクチャーに付着したバラストやカラーパウダーも無水エタノールで綺麗におとしてしまえば、保管する、中古品として売却する、再利用する等リユースが可能な状態となる。
4. 解体を前提としたテクニック
十分なノウハウを積み上げているNゲージャー諸氏は、実は最初から解体を見据えた設計をしていることも多い。正確には解体ではなく、レイアウト全体がいくつかの部品に分割できるようになっている。モジュールレイアウト方式や意図的に固定しない方法を巧みに組み合わせ、ポータビリティやメンテナンス性を考慮しつつも固定レイアウトの魅力を見事に実現させている。特に何らかのコミュニティに参画する場合、共同製作を行ったり、走行会・展示会といった各種外部イベントに出展したりする機会が自然と増える。そのため、前述のような制作方針はむしろ必然となってくる。
5. 最後に
固定レイアウト(ジオラマ)を組みたいが、そうすると後戻りはできないと考えて二の足を踏んでいる方々も少なからずおられるのではないかと推察する。しかし、結論として解体方法さえ会得してしまえばリカバリーはできる。また、解体の理由のところでも少し触れたが、最初から完全なレイアウトを組むことはほとんどできないと考えた方が良い。綿密な計画や設計を練り込んだ上で完成させても後から何らかの課題は必ず発生する。それだけ課題ネタとなるものは多いということだ。
別に鉄道模型に限った話ではないが、趣味でも仕事でも勉強でも最初から全て完璧にこなすのというのは無理な話だ。やってみて課題が見つかり、それを克服して経験値を積み上げ、ステップアップしていくというのは共通のプロセスだと思う。固定レイアウトを組みたいが初めてで不安という方々に対してのメッセージとなるが、失敗してもやり直しはきくんだという心持ちで是非チャレンジしてみてはいかがだろうか。