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投稿日:2021/07/13

歴史をひもとく技術01-学問にとって時間とはなにか

室戸岬夕景(筆者撮影)
室戸岬の夕景。足元はかつての海底がプレート境界で上部のみ引き剥がされ、押し上げられて形成された岩。「付加体」という。この付加体の年代を特定することによって、さまざまな地質現象が読み解ける。筆者撮影。


 

学問は因果関係を知りたい事が多い

わたしたちは地球の年齢が46億年であることを知っています。科学に興味のある者なら、小学生でも知っていることでしょう。しかし、この46億という数字は何から算出されたのでしょうか。これを知るものは世の中そう多くはないでしょう。

学問や好奇心による探求の行き着く先の一つが、「いつ、なにが、どのようにして起こったのか」を求めることでしょう。探求にあたって、われわれはものごとの因果関係に頼って論理を構築するので、時間という概念が本質的な立場を演じるのですね。

こうした「いつ、なにが、どうして」は、学問上の問いとして数限りなくあるでしょう。以下に例示してみましょう。

  • 宇宙はいつ、どのように、何を原因として始まったのか(天文学・素粒子物理学)
  • 地球はいつ、どのように形成されたのか(地球惑星科学)
  • 生物はどのように生き延びてきたのか(進化生物学)
  • 人間はいつどこからきたのか(人類学)
  • 史料に名が残る特定の人物は、いつ、どのような行動をしたのか(歴史学)
  • 出土した史料はいつごろのものか(考古学)
  • 大規模の災害につながるような地質・気候変動がかつてあったか(防災学・地質学・古気候学)
  • ウィルスはいったいいつ、どこで変異したのか(遺伝学・分子疫学)
  • 飛行機にはいつ、どのような操作が加えられ、どのようにして落ちていったのか(安全工学)
  • etc…

これらの「いつ」を知るにはどうすればよいのでしょうか。学問はこれまで、どのような工夫によってこれを求めようとしてきたのでしょうか。

時計のない時代、資料のない時代

現代の私達が利用する時計は、おもに電気信号の形で共有された時刻を(直接・間接的に)利用します。PCにおいてはNTPサーバから共有された時刻を、スマートフォンにおいても同様ですが、GPS時刻を利用する方法もあります。他にも、電波時計の信号源もいくつかあります。少し前には時報サービス(117/いまいまなんじ)もありましたね(いまもあります)。車の時計なんかはラジオの時報を聞いて合わせるよ、という人もまだいるかも知れません。ともかく、ある時計を基準として、その時計を電気的に共有して使っていこう、という世の中なのです。そうして共有された時刻を、テキストか何かの形でとどめておけば、よい精度の時間記録が成立することになります。

しかし、電気以前だとそうはいきません。たしかに時計の基準となる「日」の感覚は共有されており、中世以降であればそこそこ暦も正確でした(歴史的には賄賂によって暦が歪められたりしたこともありますし、誤差の蓄積が激しかったときもありました。)。それは天文観測をもとに計算されていたわけですが、それに合わせて機械時計などを作り、またより前には一定の燃焼速度のろうそくや香、砂時計、振り子、水の落下、そして天文そのものである日時計を利用していました。文献資料にはこれらの値が書き込まれ、利用されました。

天文学分野では、歴史資料を利用した天文学(古天文学)というのもあり、たとえば彗星や超新星爆発といった現象の記述を現代の暦から遡れるようにし、現在観測している現象が、ある事件の発生からどのくらい経たものなのか、というのをかなりの精度で求めています。

歴史資料に残されていても、それが改ざんされたり、伝聞として不正確だったり、誇張したり、といったこともあります。歴史としては、別の文献や、出土資料によって証拠を補強しなければなりません。出土資料が伝世文献(今に伝わってきた歴史資料)に出てくればいいですが、多くの場合傍証にしからならず、歴史の信用できなさ、みたいなものの一つの理由だったりします。

そもそも出土資料、というものは、歴史とはなんら脈絡なく見つかることが多いもので、現代では住宅建設のついで、のようなときに調査が行われます。なので、この出土した資料が一体いつの時代のものかを特定することは必須になります。

多くの場合、歴史資料は地下から出てくることが多く、第一にはどの時代の地層から見つかったか、という情報によって大体の年代を特定できます(その地層の年代決定をどのようにするかという問題は依然残されているし、地面が人工的に撹乱されていないことを確かめる必要がある)。さらには有機物の場合、生存していた時代には光合成プロセスや食物の形で環境から炭素を取り込んでいたものが、ある時点で死にいたり、炭素を取り込まなくなります。この性質を用いて、炭素の放射性同位体比(14Cと12Cとの比率)によって大体の時代を特定することができるのです。

このようにして、史料にあるより以前の情報も、このような放射性同位体比の方法や地層参照の方法などを用いて、年代を推定することができるのです。

 

今回は、年代決定というものが存在すること、その方法には地層から参照する方法と放射性同位体から参照する方法があることを見ていくことができました。次回から地球の年齢を見ていくことができればと考えています。年代決定の方法のより詳細についてはまたその中でお話しします……!

文: Hz
(つづく)