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投稿日:2021/06/07

高村薫と言う作家の緩やかなファンであると言う話

たまには自分語りをしてみようと思い、書く。
個人的に、学問というのものは記述から始まるものだと思っている。 しかし小学生の頃、私はアカデミズムとは程遠く、4年生になる位まで全く本を読まない生活をしていた。
そんな中出会ったのが『コロボックル物語』と言う児童書だった。わたしはそこを起点に本を読み漁るようになり、中学生の頃には年間400冊位の本を読むようになっていた。『コロボックル物語』から派生して読むようになったのは、『ハリーポッター』シリーズや『指輪物語』などのファンタジー作品だったが、それとは別に駅の売店で見かけた『寝台特急八分停車』と言う不思議なタイトルの本に惹かれ、推理小説への扉が開かれた。
その本は西村京太郎と言う作家が書いた、まぁ鉄道を使ったトリックのミステリーだったが、その後も作家買いのように西村京太郎の本を読み漁るようになる。そんな中で、友人の母に「警察小説が好きなのであれば高村薫何かオススメだよ」と言われたのがきっかけで、中学1年生の時、高村薫への出会いを果たした。

最初に読んだ小説は『マークスの山』。それはそれまで読んだどんな作品よりも重く、そして映像を感じさせるものだった。そこからまた作家買いが始まり、『黄金を抱いて翔べ』、『神の火』、そして『リヴィエラを撃て』という本に出会う。わたしはこの、『リヴィエラを撃て』、という小説が大好きで、いまだに1番好きな小説を上げろと言われれば、躊躇なくこの作品を選ぶだろう。
もしかしたら、著者にとってこの選択は不本意かもしれない。このあとに書かれた作品で扱われた、社会への問いかけといった要素はあまりこの作品に含まれていないように思えるからだ。それは例えば、『レディ・ジョーカー』における被差別部落の話、『マークスの山』における障害者の話、『黄金を抱いて翔べ』における在日の話、『神の火』における被曝やヤクザ。こういう内容は、『リヴィエラを撃て』にはあまり登場しないのである。純粋なスパイ物——つい先ごろJohn le Carréの作品が映画になったもの(”Tinker Tailor Soldier Spy”/邦題『裏切りのサーカス』)を見て、これは似ていると思ったが(実際、かなり参考にしたところもあると思う)——なのであるが、とはいえただのアクション物的エンターテインメントではなく多くの人間劇をはらんでおり、人間がその役目と使命感と欲望の中でいかに生きていくのかと言うことをフィクションながらに見せてくれた小説であったように思う。当時の読後感は、『指輪物語』のそれに近かったと記憶している。どちらも、ある1つのため目的のために、多くの人々がその熱意、パワー、力を注ぎ、そして多くが破れ、最後に元の場所に戻ってくると言う、壮大な話であるのだ。映像を見せてくれるタイプの(?)小説として、あれはほんとうにほんとうに力を持ったラストシーンであり、私はまだこれをこえる読後感を得たことがないのである。
(K.H.)


リヴィエラを撃て(上) (新潮文庫) リヴィエラを撃て(下) (新潮文庫)
リヴィエラを撃て(上) (新潮文庫) / リヴィエラを撃て(下) (新潮文庫)
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